LP on Implant Rods

平田・青野研究室|青野担当研究

青野 祐子 / Yuko AONO

東京科学大学 工学院 機械系
平田・青野研究室
Engineering functional materials through surface and process design.
Research Outcome

脊柱固定ロッドへのレーザピーニングによる疲労信頼性向上

レーザピーニングと電解研磨を組み合わせることで、曲げ加工を受けた脊柱固定用Ti合金ロッドの疲労寿命改善を目指した研究です。
研究対象 脊柱固定用Ti合金弯曲ロッド
主な処理 レーザピーニング、電解研磨

研究背景

脊柱後弯症や側弯症の手術では、金属製ロッドとスクリューを用いて脊椎を矯正・固定します。 脊柱固定用ロッドは、患者ごとの脊柱形状に合わせて手術中に曲げ加工されますが、曲げ加工を受けた部分には引張残留応力や応力集中が生じやすく、体内で繰返し荷重を受けることで疲労破壊に至る場合があります。

本研究では、曲げ加工後に引張応力が作用しやすい弯曲部に着目し、レーザピーニングによる局所表面改質を検討しました。

研究の目的

レーザピーニングは、短パルスレーザ照射によって発生する衝撃波を利用し、材料表面近傍に圧縮残留応力を導入する表面処理技術です。 圧縮残留応力は、疲労き裂の発生や進展を抑制する効果が期待されます。

一方で、Ti合金にレーザピーニングを施すと、レーザ照射に伴う表面粗さの増加が疲労き裂の起点となる可能性があります。 そこで本研究では、レーザピーニング後に電解研磨を施し、表面粗さの影響を低減しながら疲労寿命を改善する処理方法を検討しました。

実験方法

直線状のTi合金ロッドに曲げ加工を施し、脊柱固定用ロッドを模擬した弯曲ロッドを作製しました。 レーザピーニングは、繰返し曲げ荷重時に引張応力が作用する弯曲部内側を対象として行いました。

比較のため、以下の3種類の試料を作製し、繰返し疲労試験により破断までの繰返し数を評価しました。

  • 未処理材
  • 電解研磨材
  • レーザピーニング+電解研磨材

主な成果

約3倍
レーザピーニング+電解研磨材では、未処理材と比較して疲労寿命が約3倍に増加しました。
局所処理
曲げ加工後に引張応力が作用しやすい弯曲部を対象として、局所的な表面改質を行いました。

レーザピーニングと電解研磨を組み合わせた試料では、未処理材と比較して疲労寿命が増加しました。 この結果から、弯曲ロッドの引張応力作用面へ局所的にレーザピーニングを適用することで、Ti合金弯曲ロッドの疲労寿命を改善できることが示されました。

また、電解研磨のみを施した試料でも疲労寿命の向上が見られました。 このことから、Ti合金弯曲ロッドの疲労寿命に対して、表面粗さによる応力集中が重要な影響を及ぼすことがわかりました。

破断面観察では、未処理材では主として弯曲部の引張側表面近傍から疲労き裂が発生し、ロッド内部へ進展する様子が確認されました。 レーザピーニング+電解研磨材では、未処理材と比較してき裂が減少する傾向が見られ、レーザピーニングによる表面改質が疲労き裂の発生または初期進展を抑制した可能性が示唆されます。

本研究の意義

本研究の重要な点は、ロッド全体を一様に処理するのではなく、曲げ加工後に高い引張応力が作用する領域へ選択的にレーザピーニングを施した点です。 脊柱固定用ロッドでは、手術時の曲げ加工によって局所的に力学的弱点が生じる可能性があります。 本研究では、そのような高リスク領域を対象として局所的に表面改質を行うことで、疲労信頼性を向上できる可能性を示しました。

また、レーザピーニング単独ではなく、電解研磨による表面仕上げを組み合わせることで、表面粗さによる悪影響を抑えつつ、レーザピーニングによる改質効果を活かせることが示されました。 これは、医療用金属ロッドの疲労寿命改善に向けた表面処理プロセス設計として重要な成果です。

関連発表

青野祐子,工藤颯,徳永大二郎,和田明人,平田敦
「レーザピーニングによる脊椎固定用Ti合金弯曲ロッドの疲労強度改善」
日本機械学会 2026年度年次大会,2026年9月,東海大学

謝辞
本研究は、公益財団法人JKAの補助を受けて実施しました。 また、材料分析には東京科学大学コアファシリティーセンター分析部門にご協力いただきました。